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その548 振り返り 2025.5.30

2025/05/30


 年に1回ではあったが、大学で胃潰瘍・胃腫瘍の講義を行ってきた。
それを2024年度で終わることにした。
講義を始めたのは1996年頃。
大学のみでなくリハビリ系の学校でも講義をしたこともあった。
学生さんに配布した資料がB4なのが懐かしい。
今や紙の資料は配布しない時代だ。
 
 初期にはヘリコバクターピロリの扱いは小さく、
2000年にピロリ菌除菌療法が保険適応となった頃から講義の大きな柱となった。
近年は除菌をした人の割合が増えて、除菌後に発生する胃がんの問題や、
ピロリ菌陰性の胃癌のウェイトが大きくなっている。
内視鏡にAIによる補助診断が組み込まれているのも最近の特徴である。
 
 日本人の胃粘膜の変化や、医療の進歩に私も対応しているつもりだが、
若い学生さんには若い講師陣から
熱量あふれる講義を受けてもらうのがふさわしい。
 
 5月の連休、久々に東京へ行った。
母校自治医大のオーケストラが50回の節目の定期演奏会だという。
公演は栃木市で行われるが電車で栃木市まで行ったことがない。
アプリによると上野から北千住を経由して東武線に乗るのがお勧めだが、
特急は全席指定で切符がとれず、
南栗橋まで急行、その後普通列車に乗ることになるみたい。
こう書くとスムーズに行けたように聞こえるが、そのあたりの土地勘がない。
栗橋というと四谷怪談の始まり、亡き桂歌丸師匠や
最近は隅田川馬石師匠がよく演じている「栗橋宿」が浮かぶ。
乗った電車はワンマンで、車両のドアのそばに開閉のボタンがあるのに驚いた。
外側にも開けるためのボタンがある。
駅に停車するとボタンが押せるようになる。
乗り降りする人がいない車両はドアが閉じたまま。
冬の空っ風が入るのを防ぐためだろう。
 
 オーケストラの定演は素晴らしかった。
1984年から指揮・指導をなさるK先生と、学生たち、
助演をして下さる団友の方々が一体となって豊かな響きを聴かせてくれた。
1曲目はワーグナーの前奏曲で、これにはOBも出演している。
私より1学年下でコンマスを務めていたM君の顔が見えた時、
一気に記憶が昔に引き戻された。
 
 41年前、私はここでベートーベンのピアノ協奏曲第3番をK先生の指揮で弾いた。
舞台の袖からK先生と一緒にコツコツ歩いて
ピアノの前まで進み、ぎこちないお辞儀をする。
ドキドキがよみがえる。
大学5年生がずいぶん冒険をしたものだと思う。
 
 この日の2曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。
ソリストは芸大教授でもある有森博さん。
さすがに落ち着いて聴いていられる。
抒情性もたっぷりあってエキサイティングでもあった。
メインはチャイコフスキーの交響曲第5番。
シンフォニーにはちょっと疎いのだが、
オーケストラの音の流れが大河のようで感動した。
素晴らしかった。
K先生、お疲れさまでした。
 
 51回以降も頑張ってほしい母校のオーケストラの道も、
私のこれからの診療の道も、電車の線路もまだまだ続く。
これって連載が急に打ち切りになった漫画の最後によくあるセリフだそうです。