調べる人々
2006/03/25
先日、土佐山内家宝物資料館の館長さんの講演を聴く機会があった。
「内助の功」と「大出世」虚実、検証・山内一豊伝説、という演題である。
言い伝えには、真実と、そうでないものがあって、
真実の言い伝えにはいろいろな情報源があるらしい。
一豊が初めて手柄を立てた折に、相手の矢が頬から顎にかけてささった。
この時、矢を抜いた家臣は、わらじのまま一豊の顔を踏んで矢を引き抜いた。
そのわらじが、安芸の神社の御神体となっていると言う。
年代測定も行われ、当時のものであることが確かめられているとのこと。
また、この時のやじりは、家臣の家の家宝になり、現代に伝わるという。
一方、千代がへそくりを出して名馬を買った、という話は、
山内家や家臣の家にはいっさい伝わっておらず、
江戸中期の儒学者、新井白石が、各藩の由来を記した
藩幹譜という書物に書いたことが、
明治以後国定教科書に載せられて一般に広まったようだ。
素朴な語り口であるが、館長さんの話は、あふれる知識に裏打ちされ、
その知識の背後に、歴史を正しく捉えたい、という純粋な思いが感じられる。
NHKのBSで、人体の神経組織についての番組があった。
不幸にして腕を失った人の、残った神経や筋肉からの電気信号を受信して、
高度に動く義手が作られたり、
また、幼児期からの聴覚障害は神経細胞が衰えて、
再び聴こえることはないと思われていたのが、
人口内耳を用い、訓練を重ねることで、かなり聴こえるようになるという内容であった。
ロボット工学者や神経内科医は、
それぞれビジョンを持って、より高度な技術に挑戦している。
番組の案内をしたのが、知の巨人と言われ、現在は東大教授である立花隆氏であった。
この方も、いろいろなことをよく調べる人だ。
「田中角栄研究」や「臨死体験」、最近では文芸春秋に連載された「私の東大論」など、
その膨大な読書量と、解明欲とでもいうか、そのパワーには驚かされる。
番組でも氏は、熱く未来への技術発展の夢を語っていた。
しかし、市中の医者である私から見ると、
この番組で扱った領域が特殊で、ありふれた肺炎や癌で
苦しまざるを得ない人々が多いことに気付く。
抗生物質や、癌の内視鏡的診断や治療もかなり進歩し、
裏づけとなる病理組織や
腫瘍マーカーのデータも重要であるが、
肺炎や癌は、基本的にはレントゲンやCT、内視鏡像などを医師の目が見て診断している。
「これは肺炎の像」
「これは肺炎のかげに癌が隠れていそう」
「この潰瘍の感じは、悪性を疑った方がよい」などなどである。
立花氏がこういった病気にかかったとき、
意外と原始的な方法で、診療が行われることに驚くに違いない。
コメント
いっしょに番組を見ていた中学生の息子に
「この人、誰だか知ってる?」と立花氏のことを聞くと
「え?演歌歌手?」という答えが返ってきた。
教授に対して失礼であるぞよ。
でも、赤ら顔のところは、そんなふうに見えなくもない