その471 「荒」について 2017.9.24
2017/09/24
破天荒という言葉がある。
中国の荊州では百年の間、科挙に合格した者がおらず、未開の地、荒れた土地の意味で「天荒」と呼ばれていたそうだ。
その土地から科挙に合格した人物が出た。
「天荒を破る」として「破天荒」が、物事を初めて行うこと、その人物を指すようになったようだ。
今では、少し意味が変わってきて、豪胆な性格の事、波乱の人生の事などに使われている。
中村紘子さんのエッセイ集「ピアニストだって冒険する」を読んだ。
中村さんは、1965年ショパンコンクールの日本人初の入賞者である。
日本がピアノにおいて「天荒の地」とは思わないが、
生のオーケストラやピアノの演奏会が頻繁ではなかった頃の日本においては、「破天荒」の人と言って良いと思う。
著書では、リサイタルやオーケストラとのコンサート、コンクールの審査員として世界を飛び回った中村さんの、
日本人やポーランド人ついての実感と知識が、世界のピアニストとの交流を織り交ぜて興味深くつづられている。
その中で、昔の日本のピアノの先生は恐ろしかったことを書いておられる。
生徒に対して悪口雑言は当たり前、手を挙げることもまれではなかったようだ。
私のピアノの師匠はそんなことはなかったが、そのまた師匠の方は、
地方都市とはいえ年代的に日本のピアノの黎明期を背負った方であったから、厳しいことは有名であったらしい。
最近テレビのアナウンサーが「声を荒げる」を「あららげる」と発音するので、
嘆かわしいと思っていたら、一度ならず再々「あららげる」と言うのを耳にした。
私の小学校の先生は「こう書いて、あらげる、と読みます。」と教えてくれた。
改めて広辞苑を引くと「あらげる」は「あららげる」の略、と出ていた。
そうかなあ、ひょっとすると2000年あたりまでは「あらげる」が主流だったのではないかと考えて、
1993年に購入した和英辞典を引くと、「あらげる→あららげる」と出ていた。
やはり「あららげる」が本家であったと考える方が良さそうだ。
ちなみにこの辞書は研究社新和英中辞典1983年第3版である。
昔のピアノの先生は声を「あらげた」か、「あららげた」のか。
やはり「あらげた」ほうが、大声で怒られる感じが実感される。
しかし音楽は穏やかに、うまく弾けない時は、深呼吸して心を落ち着けて練習したいものだ。