その482 予選 2018.9.18
2018/09/18
あるコンクールのピアノ部門予選を聴いた。
この時期のあるコンクールと言えば、お分かりの方はお分かりと思う。
伝統ある全日本クラスのコンクールである。
3日間行われる2次予選の半日を聴くことができた。
課題曲はバッハの指定された曲目のうち1曲、ショパンのエチュードを1曲、
それに指定されたロマン派や近代の作曲家のエチュードを1曲で、16-20分に収めるというもの。
出場者は皆若く、意欲満々でステージに足音高く登場する。
登場からすでに審査が始まっているということか。
指定された曲目から言うと、どのように選んでもバッハの曲の占める時間が多くなる。
この2次予選はバッハの演奏に重きを置きつつ、ショパンの歌心とテクニック、
ロマン派などの豊かな音の響きを見る狙いだろうか。
もっとも、私はこのような大きなコンクールの予選を聴くのは初めてだから、
この課題は特別なものではなく、よくあるルーチンなのかも知れない。
6人の方の演奏を聴いた。才能が豊かで十分に修練を積んだ方ばかりだと思う。
3つの課題はそれぞれに選択の余地があるので、準備のできた得意な曲を選んだ方がほとんどであったろう。
ラフマニノフの唯一の長調のエチュードを、古いたとえで申し訳ないが、
かつての名盤エドワード・アウアーのように端正に弾かれた方、
ショパンの重音のトリルのエチュードをそれは見事に弾かれた方、
などなど皆さん、緊張の中で素晴らしい演奏だったと思う。
3曲目にもう一層のパンチがあれば、と思う方もいれば、
バッハの出だしの音が少し鋭すぎて残念、という方もあり、
3曲上出来に揃えるのはなかなか難しそうだ。
もっと多くの方の演奏を聴きたかったが、6人の演奏を聴いたところで、時間の都合もあって会場を出た。
会場から最寄りの駅までシャトルバスがあり、利用することにした。
私の後ろの席には少し前に演奏した方が、友人の方と座っていた。
私は二人の会話を聞くともなく、実は耳をダンボにして聞いていると、
「ショパンの出だしでミスっちゃって、あれあれと思っている間にショパンは終わっちゃった。」
という。
確かに最初にミスタッチはあったようだが、魅力的な演奏は少々のミスを帳消しにして、
もっと聴きたい、という気を起こさせる。
バッハは半音階的幻想曲とフーガを弾かれた。
やや早いテンポ、弱音ペダルの少ない明快な演奏なのだが、
左手の中低音部がトロトロと流れてとても心地よい演奏だった。
3曲目のエチュードも秀逸で、聴衆の拍手は大きかった。
ステージの上では長身で腕も長く、大きく見えてオーラがあったが、
バスの中では若い学生さんに戻っていた。
バスを降りる時に、「良かったですよ、私の聴いた中では一番良かった。」と声を掛けさせていただいた。
この日の16人のほか、あと2日の2次予選、
合わせて50人ほどの若いピアニストの中から、3次予選に進める人が選ばれる。
大きなコンクールではあるが、これだけが唯一のコンクールではない。
新聞には芸術の秋らしく、海外のコンクールでの日本人の活躍の話題も出ている。
うまくいった人はさらに上を、残念だった人にはまた次のチャンスにチャレンジしてほしいと思う。
6人の中だけだが私のイチオシのピアニストは、3次に進めるといいがなあ。