その487 かまどと黒板 2019.4.21

2019/04/21

かまどは田舎にあるものだと思っていた。
祖父母の暮らした家にあって、私が子供の頃は実際に薪を使って米を炊いていたし、煮物も作っていた。

 

ところが、先ごろ見せていただいた高知市内のお宅にも、
土台はコンクリート造りながら、レンガ色のかまどが二つあって驚いた。
レトロな雰囲気のためにあるのではなく、戦前に作られ、実際に使われていたリアルなかまどである。
正面には薪を入れる口があり、それを塞ぐ鉄の半円形の蓋がある。
上には釜をはめ込む穴がある。かまどの奥には拳大の穴が奥に向かって開けられていた。
この穴は何のために? 空気の取り入れ口?

 

知り合いにこの話をすると、かまどのことを「おくどさん」とも言うで、と教えてもらった。
辞書で「くど」を引くと、竈(かまど)と同じ漢字を書いて「くど」と読み、
煙を出す穴、また「かまど」のことを言う、とあった。

 

毎年4月には大学で講義をする。胃潰瘍、ヘリコバクター、胃の腫瘍についての講義である。
プリントを配り、それを読むだけでは学生は寝てしまうので、
プリントに書いていないこともしゃべり、板書するスタイルでもう何年も行っている。
今年も準備をしてくれる事務の方にチョークを頼んでおいた。
パワーポイントとプリントだけの講義が多いためか、チョークがほとんどないことがあったからである。

 

教室に入ると、去年まであった深緑色の黒板はなく、
黒板の面に白い樹脂が貼られていて、巨大なホワイトボードに変わっていた。
当然チョークはなく、三色のマーカーが置かれていた。
チョークよりも滑りやすく、乱筆の私が急いで書くと、余計に読みにくい文字になったと思うが、
白や黄色の粉が手や服に付かないのは少しいい所か。
学生さんはまだ新学年になったばかりで、出席率はまずまず高いようで、熱心に聴いてくれたと思う。

 

かまどと黒板、古い物が姿を消すのは寂しいが、進級して新しい領域の話を聞く学生さんや
夕方ほっとした表情で会社から出て街を歩く新入社員たちの姿を見ると、
こちらもフレッシュな気分になる。