その490 楽譜 2019.8.9
2019/08/09
バイオリニスト、ナタン・ミルシテインの演奏をラジオで聴いた。
ウクライナ出身の名演奏家であるが、若い頃は速く弾きすぎると言われたそうだ。
だが60歳を過ぎてから肩の力が抜けて、本当の名演奏家になったと言う。
そうか、60歳からということは、私もこれから?
高知にも音楽コンクールがある。
出場を考えている若い方には、是非、肩の力を抜いて実力を出し切ってもらいたいと思う。
私も研修医だった頃、師匠にも黙って出場したことがある。
外科をローテーションしていた時で午前・午後と手術に入り、
午後の会場でのリハーサルには行かず、いきなり夕方からの本番に臨んだことだった。
だからというのではない、うまく弾けずに克服できないところがあって、結果は良くなかった。
三十数年前の遠い昔の話です。
このコンクールの広告が夏ごろからよく新聞に掲載されている。
どれどれ、と目を向けると「申し込みの際に楽譜を提出のこと、コピーは不可」とある。
おや、楽譜を提出するとどうやって練習するのでしょうか。
暗譜で弾くとしても、本番までにはああしよう、こう弾こうと色々考えるでしょうし、
本人以上に師匠は「ああせい、こうせい」ということでしょう。
これを楽譜に書き込むと後々の財産になると思うのです。
本物の楽譜は提出して、コピーを取って練習してねっということでしょうか。
何百回もの譜めくりでつく手あかが右ページの隅にあるいつもの楽譜で練習したいですよね。
本番前にはお守りみたいなもので、
一度楽譜を広げて心を落ち着かせてからステージへ、という人いませんか。
このように言ってる私ですが、実は最近はコピーを取って
スプリングノートに貼った楽譜を使っています。
製本された楽譜は、かなり使い込んだものでなければ
譜面台の上でパタンと閉じてしまうので、抑えるための本が必要です。
スプリングノートは、譜めくりが楽。
カバンに入れて持ち運びをして、楽譜が痛むのは避けたいけれど、
コピーしたノートだとあまり気を使わなくていいし。
結局は良い音楽が頭と心に沁み込んでいて、それが体から鍵盤、弦、ホールへと伝わればOKなのです。
チャイコフスキー・コンクールで優勝したロシアの女流ピアニスト アブデーエワは、
かつて華やかなドレスで演奏していたそうですが、
ある時から黒のパンツスーツばかりで演奏するようになりました。
衣装が演奏の邪魔をしてはいけないといった理由だったと思います。
彼女の言葉
「心から楽器と音楽を愛し、伝えたいことを持っていればうまく演奏できなくでも聴衆は分かってくれる。」
コンクールに挑戦する若い人たちへ、
審査員は分かってくれなくても、きっと聴衆は分かってくれますよ。
多くの場合、審査員の意見は多くの聴衆の意見と重なるのですけれどね。