その491 ヂョウトンバ 2019.9.6

2019/09/06

岡山のアンティークのお店に入った時のこと。
昔懐かしい手回しの鉛筆削りやガラスのすり合わせの薬瓶、ブリキのおもちゃなどが並んでいる中で、
表札のような木が箱にいくつも入れられていた。
木には花の文様などが彫ってあり、表面に墨で何か書いてある。
多くは昔の単位の重さを示す匁(もんめ)が書かれているが、
一つの木には「ヂョウトンバ」と書いてある。
これは何? チョウトンボのこと?

 

しかし木に彫り込まれているのはトンボなどの昆虫ではなく、
裾の広がった和服を着るおばあさんのようである。
もう一つの木札にはおじいさんが彫り込まれていた。
どこかで見たような。そうだ、田舎の家の摺りガラスにこの老夫婦がいた。
おばあさんのことは「うば」、横にいるおじいさんのことを「じょう」という。

 

「ヂョウトンバ」は「尉(じょう)と姥(うば)」だったわけですね。
木札の他に、長めの印鑑のような棒の先に花の模様が彫り込まれたのが何本もある。
どうやらこれは落雁を作る型のようだ。

 

菓子を作る木型として昔からヤマザクラが使われていたそうだ。
ソメイヨシノはねじれながら成長するので、割れやすく、木型としては扱いづらいようだ。

 

「尉と姥」は能の高砂に基づくもので、熊手と箒で二人が松の落ち葉を掻く姿、とは広辞苑の解説。
長い間この木型で作られ、世に出た老夫婦の菓子。
きっとお使い物やめでたい席に供されたものと思う。
菓子になった二人が話したかどうかわからぬが、菓子作りの職人にヂョウトンバと呼ばれていたとは思うまい。

 

ヂョウトンバ わしらのことかと 尉と姥