その538 昭和のスタンス 2024.1.18
2024/01/18
車のラジオで昭和の頃の落語を聴いていた。浮世床という噺。
街のサロンでもあった床屋で、居眠りをしていた半ちゃんという男に
「寝てねえでおめえもなんか言えよ。面白い話はねえのかい。」
と仲間が声をかけるが半ちゃんは起きない。
「半ちゃん起こすにはね、耳元で、一つ食わねえかいって言ってごらん。」
これで起こされた半ちゃんの語りが始まる。
歌舞伎を立ち見で見てたら、自分の前に座っているご婦人が
「ここ、私の連れが来るはずたったんだけど、来られなくなっちゃって空いてますの。
お座りになりません?」
て言うんだよ。
「さいですか。よろしいんですか。」
ってんで一緒に芝居見てて、終わったらお茶屋さんへでもって俺を誘うんだよ。
店へ入ってうまい飯食ってたら、
「御酒はいかが」ってえから、、、。
ちょっと待て、てめえなんざ御酒っていうより
場末の酒場で安い焼酎かっ食らってんのが落ちだろうよ。
まあそう言うない。ご婦人と一緒に御酒をいただいたと思いなよ。、、、という噺。
えらく焼酎が見くびられたものだと思うが、この時代はそうだったのだろうか。
時代といっても想像される江戸時代じゃなくて、落語家が高座でやった昭和のことだ。
そういえば、少し前のこと。
店主が自分で釣ってきた魚を出す店のカウンターでビールを飲んでいたら、
隣にいくぶん先輩の方が入ってこられた。
日本酒をご注文で、少し飲まれた後、お猪口をもう一つ、と女将さんに頼んで私に勧めてくれる。
「いつもビールかい。」
「ええ、若い頃はビール一辺倒でした。」
「他には飲まないの?」
「焼酎の水割りなんかは時々」、、、、
しまった、「日本酒も好きでいただきますよ。」ぐらいのことを言っておけばよかった。
ちょっと気まずくなって、お猪口を飲み干してから
「これ、おいしいですね。」と言ったが遅かった。
その方は私と近付きたいと思われたのでしょうけれど、
「生まれが高知なら酒を飲まにゃあ。」というような話になって。
何を飲んでもいいじゃないか、人の好みだよ、と思うが、
昭和の日本酒と焼酎のスタンス、あの落語か、と思ったことだった。
半ちゃんの話は続く。
ご婦人と二人で盃をやったりとったりしてるうちに、俺は眠くなっちまって、
「ごちになりました。あっしはそろそろ失礼いたしやす。」
って帰ろうとするとご婦人が言うんだよ。
「次の間に床をとってありますから、そちらでお休みになったら。」
「いえいえ、とんでもねえ。」
って言ってるうちに、何だか布団に入っちまって。
ご婦人がぺったらこ、と布団のそばに座るんだよ。そんでもって
「お疲れでしょ。肩でもお揉みしましょうか。」
って布団に手を入れてくるんだよ。
そいで、そいでどうなったんだよ。
そこでだれか耳元で言っただろ、半ちゃん一つ食わねえか、って。
昭和の散髪屋さんは子供や大人がたくさん待っていて、漫画を読むのが楽しみだった。
最近の理髪店は予約が必要なことが多くなって、待ち時間がないのはいいけれど、
半ちゃんみたいな夢を見ることは叶わない。