ワレン博士の耳
2006/07/03
2006年6月のヘリコバクタ-学会で、ヘリコバクター・ピロリを発見し
ノーベル賞を受賞した、ワレン博士の講演を聞いた。
淡々とした講演ではあったが、自分自身の情熱、そして共同受賞者のマーシャル博士の熱中、
また自分の周囲に幸運があってヘリコバクター・ピロリを発見することができた、
という概要であったと思う。
講演終了後、大きな拍手がおこり、博士には学会会長から記念品が贈られた。
博士は、自分の講演が終わった後、しばらくして客席に現れ、
熱心に日本人のヘリコバクター・ピロリ培養の先駆者の講演を聴いておられた。
その席は私のすぐ前であった。
博士はオーストラリアの方でなので、同時通訳を聴かれる。
博士の耳は、その長身にふさわしい大きな耳である。
同時通訳のイヤホンは、耳の穴に入れるのではなく、
ヘッドホンのようにかぶるものでもなかった。
携帯電話より少し大きなプラスチック製で、
耳たぶを想定したくぼみに耳をはめて聴くものであった。
博士の耳は、くぼみよりかなり大きいので、すぐにイヤホンがずり落ちる。
その度に博士は律儀にイヤホンを耳にかぶせる。
もう耳の上が赤くなっている。
後ろにいた私は、イヤホンを支えてあげようと何度思ったことか。
高名な学者の講演にもいろいろあって、
もう古くなってしまった話や、思い出話に終始することもあるが、
ワレン博士の話は、未だに興奮に満ちていた。
若い医学者や、私のような研究から離れかけた医者の情熱をかき立てるに十分であった。
なにより、ノーベル賞を得た自分の研究分野の、少し古い研究者の話を、
イヤホンを何度もずり上げながら聴こうとする、
その実直さから、シャワーを浴びたような気がする。
学会出張から帰ると、
そのシャワーの心地よさを吹き飛ばすような日常が待っていたのだが、
来年もワレン博士は来日されるそうだ。
私は、その実直な耳たぶとの再開を楽しみにしている。
コメント
博士の息子さんの奥さんが今回、博士のお世話をするために同行されていました。
チャキチャキと気の付きそうな方で、博士にぴったりと寄り添っていらっしゃいました。
博士の講演の後、紹介がありましたが、なんと高知県出身の方だそうです。
きっと博士の息子さんと素敵な出合いがあったのでしょうね。